HOME > 「最新労働法規解説」解説:岩崎通也弁護士

2014年5月23日

人事プロデューサークラブで労働法規に関するセミナーを担当しております弁護士の岩崎通也です。
今年度から、企業で人事に携わる仕事をされている方に向けて、人事労務の分野での法改正や重要判例等を紹介する記事を書かせていただくことになりましたので、どうぞよろしくお願いいたします。

第1回目の今回は、今国会で成立し、平成26年4月23日に公布された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆる「パートタイム労働法」)の改正についてご紹介したいと思います。今回の改正に関連して、厚生労働省のウェブサイトには、周知用のリーフレットや改正後の条文等が掲載されていますので、今回の記事と併せてご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000044198.html

1 改正の経緯と概要

パートタイム労働対策については、厚生労働省の労働政策審議会雇用均等分科会において検討が行われてきましたが、同分科会の報告(平成24年6月21日)では、「パートタイム労働という働き方の環境整備が必要であり、パートタイム労働者の均衡待遇の確保を一層促進していくとともに、均等待遇を目指していくことが求められる。」「パートタイム労働者の待遇について労使間のコミュニケーションの円滑化により納得性を向上させ、あわせてパートタイム労働者に対する継続的な能力形成も進めていく必要がある。」とされていました。
このような考え方を背景として、今回の法改正に至ったわけですが、改正の主要な点は以下の4点になります。

 ① 正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲の拡大
 ②「短時間労働者の待遇の原則」の新設
 ③ パートタイム労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務の新設
 ④ パートタイム労働者からの相談に対応するための事業主による体制整備の義務の新設

改正法がいつ施行されるかは、まだ決まっていませんが、平成26年4月23日から1年以内の政令で定める日に施行されることになっています。

2 改正内容の概要

1点目の「正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲の拡大」という点ですが、改正前のパートタイム労働法では、一定の条件を満たすパートタイム労働者については、通常の社員(いわゆる「正社員」がこれに該当します。)との間で、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について差別的取扱いをすることが禁止されていました。この差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者に該当するためには、これまで(1)職務内容が正社員と同一であること(2)人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一であること(3)無期労働契約を締結していること(改正前パートタイム労働法8条1項)の3つの要件が必要でしたが、改正法により(3)の無期労働契約との要件は削除され、(1)と(2)に該当すれば、有期労働契約を締結しているパートタイム労働者であっても、正社員と差別的取扱いが禁止されることになりました。

2点目の「「短時間労働者の待遇の原則」の新設」という点ですが、事業主が、雇用するパートタイム労働者の待遇と正社員の待遇を相違させる場合は、その待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとする規定が創設されました。労働契約法では、有期雇用契約者の労働条件が通常の労働者との関係で不合理な労働条件であってはならないとする規定が創設されましたが(労働契約法20条)、これに類する規定ということになります。

3点目の「パートタイム労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務の新設」については、事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたときは、実施する雇用管理の改善措置の内容(例えば、賃金制度はどうなっているか、どのような教育訓練や福利厚生施設の利用の機会があるか、どのような正社員転換推進措置があるか、など)について、説明しなければならないこととされました。

4点目の「パートタイム労働者からの相談に対応するための 事業主による体制整備の義務の新設」については、事業主は、パートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならない(例えば、相談担当者を決め相談に対応させる、事業主自身が相談担当者となり相談対応を行うなど)こととされました。

3 本改正の影響

今回の改正のうち、特に1点目と2点目については、単にテクニカルに改正法に対応すればよいという問題ではなく、非正規雇用社員をどのように会社の中で位置づけるか、という非常に大きな人事政策に関わってくる問題であり、場合によっては、抜本的にパートタイム社員のあり方を見直す必要が生ずる可能性があります。

まず「正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲の拡大」という点については、対象となるパートタイム労働者がいるかどうか(厚生労働省によれば、この改正による対象者は、約10万人程度ということです)、また差別的取扱いがなされていないかどうか、ということを検証する必要があります。その上で、もし差別的取扱いがなされているとすれば、そもそも人事政策として(1)職務内容が正社員と同一、(2)人材活用の仕組みが正社員と同一、という2つの条件を満たす形でのパートタイム労働者の雇用が適切なのかどうかを検討した上で、そのような形でのパートタイム労働者の雇用という方針をやめるか、差別的取扱いをやめるかの選択をすることが必要になります。

また、上記の条件に該当しないパートタイム労働者についても、2つ目の「短時間労働者の待遇の原則」により、パートタイム労働者の待遇と正社員の待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとされますので、対応が必要な場合があります。この点については、平成24年改正労働契約法20条に対する対応と同様、正社員とパートタイム労働者の待遇(通勤手当、食堂の利用、安全管理等、種々のものが考えられます。)に差異がある場合には、そのような差異が生じていることを合理的に説明できるかどうかを検証の上、差異の解消を図るか、その合理性を客観的に裏付けることができるようにしておくことが重要になります。

今後、各企業において、厚生労働省から出される省令や通達に注意しながら改正法の施行に向けて準備をしていくことが必要です。