HOME > 「最新労働法規解説」解説:岩崎通也弁護士

2014年8月20日

 平成26年度の通常国会では、企業の人事労務関係の実務に大きな影響を及ぼす重要な改正として、「ストレスチェックの義務化」を含む労働安全衛生法の改正法が成立し、平成26年6月25日に公布されました。現在、厚生労働省では、「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」による検討が行われており、実施者、実施方法等についての議論が行われています。今回は、このストレスチェックの義務化に関する改正について解説します。

1 改正の概要

 今回の改正のポイントは以下のとおりです。

労働者数50人以上の事業場では、常時使用する労働者に対して、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施しなければなりません。
検査結果は、検査を実施した医師、保健師等から直接労働者に通知され、労働者の同意なく事業者に提供することは禁止されます。
検査の結果、一定の要件に該当する労働者(高ストレスと判定された者など)から申出があった場合、事業者は、医師による面接指導を実施させなければなりません。申出を理由とする不利益な取扱いは禁止されます。
事業者は、面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ就業上の措置(就業上の措置とは、労働者の実情を考慮し、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置)を行わなければなりません。

 以上が改正の概要ですが(労働安全衛生法第66条の10)、実際に実施するに当たって、重要な点の多くは、厚生労働省令に委ねられており、今後、厚生労働省での議論を経て決定されることになります。
 なお、改正法の施行日は今後政令で決定されますが、平成27年12月までに施行されることになります。

2 ストレスチェックの実施者、項目等

 現時点では、事業者が具体的にどのようにストレスチェックを行うことになるのかは、まだ決まっていませんが、想定されている内容は、以下のとおりです。

(1)
ストレスチェックの実施者: 医師、保健師のほか、一定の研修を受けた看護師、精神保健福祉士
(2)
実施の回数: 1年に1回
(3)
検査項目: 「職業性ストレス簡易調査票」(57項目による検査)を参考とした標準的項目

 現在、厚生労働省に設けられた、「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」による検討が行われておりますが、現時点までに行われた検討会での議論も概ね以上の内容に即したものになっています。

3 本改正への対応

(1)企業の具体的な義務内容のフォロー

 現時点では、事業者が具体的に何を行えばよいのか、明らかになっていませんので、施行が予想される平成27年10月に向けて、今後、厚労省から公表される情報をタイムリーに把握して、準備を進めることが重要です。

(2)メンタルヘルス対応の一環としてのストレスチェックの位置づけ

 厚労省によれば、本改正は、精神障害の労災認定件数が3年連続で過去最高を更新するなど深刻な状況であることを踏まえ、メンタルヘルス不調の未然防止のためには、①職場環境の改善等により心理的負担を軽減させること(職場環境改善)、②労働者のストレスマネジメントの向上を促すこと(セルフケア)が重要であるという考えのもと、ストレスチェック制度を設け、労働者の心理的な負担の程度を把握し、セルフケアや、職場環境の改善につなげ、メンタルヘルス不調の未然防止のための取組(一次予防)を強化するという趣旨で行われたものです。

 この改正の趣旨を踏まえると、単に本改正で義務化されたストレスチェックを行うことだけでは、事業者として十分な対応を行っているとはいえないことがわかります。つまり、ストレスチェックは、本来、企業が行うべきメンタルへルス不調の未然防止のために行うべき措置の一部を具体化したものにすぎない、と考えておくべきです。
 メンタルヘルス不調の防止のため、職場環境改善等の措置や、セルフケアを既に導入している企業も多いかと思いますが、そのような企業にとっては、今回のストレスチェックの義務化はあまり大きなインパクトはないかもしれません。むしろ、これまでメンタルヘルス不調の未然防止に取り組んでこなかった企業については、ストレスチェックの義務を果たすだけでなく、長時間労働等の軽減といった職場環境改善を含む総合的なメンタルヘルス対応に真剣に取り組む機会としてとらえることが重要であると思います。

(3)労働者数50人未満の事業場での対応

 今回の改正では、労働者数50人未満の事業場ではストレスチェックの義務化は見送られ、努力義務となりました。しかし、労働者数50人未満の事業場であっても、業務起因性のあるメンタル不調があれば労働災害となり、場合によっては安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う恐れがあることは、労働者数50人以上の事業場と変わるところはありません。したがって、労働者数50人未満の事業場であっても、いずれにせよ、メンタルヘルス対応は必要であり、可能な限りストレスチェックを実行し、またはこれができなかったとしても、規模に応じた形でメンタルヘルス不調の未然防止のための取組みを行うことを検討すべきと思います

なお、改正労働安全衛生法の概要は以下のリンクをご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000049191.html

現在、第3回まで開催されている「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」については以下のリンクをご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000aiuu.html#shingi203931