Personnel Position
人事のすがお
人事インタビュー「人事のすがお」vol.5
株式会社 人材研究所
代表取締役社長 曽和 利光様
愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で採用や人事の責任者を務める。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。 日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。 著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他、多数。 [ 取材: 2023年6月 ]
四分一:今日はまず、曽和さんのライフヒストリーの部分からお話を伺いたいと思います。 |
曽和: ◆クルマ一家で育った、スピリチュアル大好き少年 子供時代は愛知県の豊田市で育ちました。祖父はトヨタで人事をやっていて、父親はタイヤのエンジニア、弟も今トヨタでカーデザイナーをやっています。 今思えば、祖父から「トヨタってのはな、こういう会社なんだよ」などと、子どもの頃から人事の話を結構聞かされていた環境でしたね。 僕自身は、学研の「ムー」という雑誌を定期購読しているようなオカルト少年でした(笑)。 超能力、霊、予言、超古代文明、UFOといったものがすごく好きで、スピリチュアルなものにも興味があり、それがゆくゆくは心理学につながっていったのかも知れません。 自分たち個人も社会も、目に見える仕組みだけでなく、目に見えない何か(隠されたもの)によって動かされているのではないか…などといつも考えていました。いまだに陰謀論とかも結構好きです(笑)。 でも、「組織や社会を貫き、人々の行動を司る、隠された次元における原理原則」…組織論って実はそういうことだと思うんですね。様々な考えの個人個人が参加している社会ですが、「こういう仕組みを作っておくと、人々はこう動く」っていう法則があり、それはとても不思議なことだなと思っていて、超能力や予言を信じていた頃の自分と変わらない興味の対象が大人になってもずっとありました。 ◆京都大学で心理学を研究 当時、夢分析で有名なユングもオカルト文脈で使われることがあって、「ムー」とかによく出ていたんですね。そのユングを研究している河合隼雄先生がいらっしゃるということで、京都大学の教育学部に入学し、教育心理学科を専攻することになります。 |
四分一:心理学のどんなところに興味があったんですか? |
曽和:今だと「暗黙知」というのは普通に語られますが、僕が卒論にも引用したマイケル・ポランニーの「暗黙知の次元」の中で、「自分たちは気付いてないけれども、人は無意識に突き動かされている」というのを、すごく不思議に感じていたんです。 例えば、僕は尾崎豊ファンでもあったんですが、「自由が欲しい」とか言っているくせに、勉強をすればするほど、人間というのは何かに突き動かされていくような感じがしていました。自由意志は本当にあるのかとか、自由意志とかいうのは幻想であって、みんなが主観的に選んだ自由というものは、実は何かに導かれたものなんじゃないかとか。それは、ロックフェラーとか、ロスチャイルドとか、フリーメイソンみたいな黒幕がいて…という陰謀論めいた話ではなく、例えば、自分では主体的に動いているつもりでも、実際、人間はいろんなバイアスを受けて動いている。じゃあ逆に、そういう状況の中でも自由を得るにはどうしていけばいいかを考えた時に、人間はいかなるバイアスにコントロールされているのかを知り、そして、自分を動かすバイアスを逆にコントロールしていくことで、真の自由を確保できるんじゃないかと気付いたんです。 人事制度や組織論もそうですよね。「ある人たちに、こういう行動を取らせるために作っているシステム」ですもんね。「理念を作って浸透させる」というのは、人々の志向や行動を方向付けるためのものですよね。なので、心理学を用いて人がどっちの方向に行くかを決定させたり、自分自身をも制御することができるというのは面白いなと。 |
四分一:それで、今の「人事」という領域に進まれたんですね。 |
曽和:本当は、心理学を研究し、学者になろうと思っていたんです。しかし、当時、先生方の研究室を回ると、犯罪を犯した人、障害のある人、高齢者、幼児などの特定の対象領域に関する研究をしている人が多かったんです。 でも、自分が一番興味があるのは、社会の真ん中で普通に働いている大人たちのこと。今は違いますが、今から30年ぐらい前は、そのあたりを対象とする研究領域があまりないなと感じていました。 そんな時、たまたまリクルートに進んだ先輩の話を聞く機会がありました。その時「人事っていうのは、実は心理学の応用分野であり、社会で働く大人たち ―自分がシンパシーを感じるマジョリティの層― に対して、これまで勉強してきたことが使える!」ということがわかったんです。人事という世界って面白いんじゃないかって。 |
四分一:リクルートに入社して、すぐに人事を担当しようと思ったんですか? |
曽和:「人事をやろう」というより、「人材ビジネスをやってる会社だから」と思ったから入社しました。 実際、リクルートって営業会社じゃないですか。僕、内定者の時にホットペッパーの内定者アルバイトを京都でやっていたんですが、全然売れなかったんです(笑)。「こいつ営業ダメや」って思われたから、人事に配属になったんじゃないでしょうか(笑)。 |
四分一:その後の人事としてのキャリアをお教えください。 |
曽和:まず最初の3年間、関西で採用担当をやりました。4年目で企画や教育研修をやっているグループに配属になり、まだ下っ端でしたが制度設計を担当したり、「リクルート・ビジネス・カレッジ」という、ポータブルスキルを身に付けるための、社内MBAプログラムの企画運営をやりました。そこは結構おもしろくて、今ですと研修ってパッケージを売る会社ばかりで、ロジカルシンキングもコモディティ化しててどんなところでもやっているじゃないですか。でも当時は、マッキンゼーの人にロジカルシンキングの講座をスクラッチで作るというのを担当してたんですね。また、今では超有名になった楠木建先生に社内イノベーションの研修を作ってもらうとか。こうした「研修を作っていく」という経験は、非常に勉強になりましたね。 その後は、3年間ぐらい一度リクルートを辞めているんです。その3年は、最初の上司に誘われ、採用アウトソーシング会社(後にリンクアンドモチベーションに合併)の立ち上げのお手伝いをしていました。 リクルートに戻ってからはいろいろな経験をしたんですが、6年ぐらい採用のマネージャーをやっていました。一旦会社を辞めた人間に採用責任者を任せるとは、懐の広い会社だと思いましたね(笑)。 |
四分一:そこからライフネット生命さんに移られたきっかけは? |
曽和:リクルートでは採用の責任者だったんですけど、もっと全体感のある仕事をしたくなったんです。人事をやっていて思ったのは、採用→教育→育成→評価→報酬→配置という流れの中で、一貫性を持つというのはすごく大事だということです。人事と事業戦略・経理・法務・広報・総務といったオフィス部門は全部つながっていると感じていて、それらを全部見たかったんですね。しかし、リクルートのような大きな会社ですと、そのポジションにはなかなか行けない。 すると、元部下がライフネット生命に話を通してくれ、役員全員との面談を経て2日で採用が決まったんです(笑)。まさしく、人事だけでなく総務・広報・経理・コンプラ…併せて掌握する管理部長のようなポジションで入社しました。 |
四分一:ちょうどライフネット生命さんの急成長期の頃でしょうか? |
曽和:会社を立ち上げて1年目ぐらいの時です。従業員数はまだ50名ぐらいでしたが、日経などに取り上げられ、世間の注目が集まっていた時期でもありました。 その頃、人事プロデューサークラブに入会しました。それまでの自分の人事人生は、リクルートの中だけで閉じてきた内向きなものだったんですが、ライフネット生命に入社し、人事プロデューサークラブに入ったことで、外部の人事ネットワークが一気に広がりました。今でもその頃のネットワークは生きており、つながりが続いていて大変ありがたく感じています。 |
四分一:こちらこそ、ありがとうございます! |
曽和:事例研究会でも発表させていただきましたよね。(事務局補足:2010年4月27日 第13回事例研究会にて、当時ライフネット生命保険株式会社総務部長の曽和様より、「多様性の高いプロ集団の人材マネジメント」というテーマでご発表いただきました) その後起業するまでに、もう1社株式会社オープンハウスに籍を置きました。その頃オープンハウスで採用責任者をやっていた元部下から、「上場するに当たって組織再構築の必要があり、自分の上で管理部門全体を見てくれるポジションに就いてくれないか」という話をいただき、組織開発本部長という役職で入社しました。 |
四分一:なるほど、そうした経験を経ての独立だったのですね。 |
曽和:はい、現在の株式会社人材研究所は、13期目となります。いろいろあって最初1人で立ち上げることになってしまったんですが、四分一さんには何かと相談に乗って頂いて、本当に感謝しています。あの後、じわじわ仲間が集まってきて、今に至るという感じです。 |
四分一:そんな曽和さんに、今回記念すべき第1回のプロデューサー講座で「『自ら変わり続ける組織』を実現する『計画的人材流動性』とは」というテーマで講義を頂きます。この「計画的人材流動性」という言葉は、先ほどの少年時代のお話にもあった、心理学的な要素から来るものなのでしょうか。 |
曽和:超能力や予言のように、悪く言えば「人を操る」ように聴こえてしまうかも知れませんが(笑)、いまだに「自由ってなんだろう」とか「自分で選んでいるようで、何かの力に導かれているんじゃ…」など考えたりします。実際は、自らの意思で入社したり辞めたりしてしまうのが人間です。ですから、いろんな仕掛けを作っておくことで、社員が自然に突き動かされ、自ら選択していくような組織を、どうやったら作れるのかということが課題になってきます。「計画的流動性」=人が入社したり辞めたりという非常に大事なことを、リストラなどの強引な手法を用いずに、果たして計画的に行えるのか、ということもお話ししたいと思っています。 |
四分一:それって、これまでリクルートがやってきたような施策でしょうか? |
曽和:僕がリクルートの人事をやっていた頃、そこを意識していたかどうかは微妙です(笑)。実際は、辞めてからわかったことが沢山あります。リクルートにいた頃はわからなかったのですが、ライフネットに移った後、リクルート時代にやってきたことで「これは正しかった」「これはマイナスだった」「これは趣味の域だったかも」など、記憶が相対化されたことで「何が本当の原理原則なのか」が見えてきた気がするんです。リクルートにいた頃は、「それがリクルートの文化だ」というゆるーい捉え方でいたんです。しかし、ライフネットやオープンハウスという全く違う文化の会社を経験し、独立しいろんな会社のコンサルをしていく中で、リクルート時代の記憶のパーツをつなげていくと、「実はこれめっちゃ意図的に作られていたんだ!」と気付かされることがあります。 当時の自分は全くそこに気付いていなかったし、それを作った人も当時の人事担当も分かっていなかったかも知れない。もしかしたら、江副さんや大沢さんレベル(事務局補足:リクルートの創業者・江副浩正氏および元リクルート専務取締役・大沢武志氏)がビルトインしたものだったかも…。 そのように、大きなリストラをしなくても、リクルートのように社員が主体性を持ち、常に若手を受け入れフレッシュな人材を確保し続けられる…そんな変化に対応しやすい組織づくりのための施策をご紹介いたします。 |
四分一:楽しみにしています!宜しくお願いします。 |